ミドル・シニア世代のホワイトニング
―歯の色、あきらめないで―
INDEX
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ミドル・シニア世代のホワイトニング
―歯の色、あきらめないで―
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皆さんこんにちは。東京都北区で歯科医をしております加藤佳世子と申します。私は大学病院時代を含め元々小児歯科を専門としておりましたが、開業してからは幅広い年代の患者さんの診療に携わるようになりました。かつての研究テーマが縁でホワイトニングのメカニズム解明にも携わった経緯があり、現在クリニックでは幅広い年代の患者さんからホワイトニングのご希望やご相談を受けております。なかでも、中高年層の患者さんからご相談を受けることが少なくありません。そこで今回は、ミドル・シニア世代の方々のホワイトニングについてご紹介してみたいと思います。
もはや歯科医院ではおなじみとなった8020運動。ハチ・マル・ニイ・マルと読みますが、「80歳になっても20本以上健康な歯を保ちましょう」という意味で、ご存じの方も多いことでしょう。平成元年のスタート時には達成者わずか7%ほどだったのが、現在ではなんと80歳を迎えた方々のおよそ半数以上が目標をクリアされるようになりました。平成から令和への30年、アンチエイジングという言葉が広まり、生活習慣の改善も進んだ結果、男性、女性とも寿命が延びただけでなく、人生後半となる中高年世代においても外見の若々しさを維持している人々が本当に多くなったと感じずにはいられません。体調管理・体形維持のためトレーニングに励み、お肌や髪のお手入れも抜かりがない、そんなアクティブシニアをお見掛けすることも増えました。でも、そこまでしないまでも、できるだけ若々しくありたい、せめて老け込んだ印象を持たれないようにしたい、と思っていらっしゃる方も少なくないと思います。
そんな方にお勧めしたいのが、「歯のリフレッシュ」としての医療ホワイトニングです。まずは、お手元に鏡を用意してご自身のお口元をよくご覧になってください。
「毎日欠かさず歯磨きしてるし、そんなに悪くはないはずだけど・・」
そのとおりです。現在のミドル・シニア世代の口腔衛生への取り組みは、先に申し上げたとおり大幅に改善しており、虫歯や歯周病などが放置されているケースは年々少なくなっているというのが歯科医としての私の実感です。ここでは、歯や歯ぐきの問題点を見つけようというのではなく、ご自身の歯の経緯(ヒストリー)を把握していただきたいのです。
左の写真は60代の方です。定期健診でよく来院される方で、歯も歯ぐきもよくお手入れされています。ところで、この方の歯はすべてご自身の歯でしょうか?答えはNOです。
次の写真の通り、これまでに様々な治療を受けられ、現状に至っています。
こちらの方はどうでしょうか?
よく見ると、ところどころ白い詰め物で補填(充填)されているのがわかります。
このように一見同じように白く見えても、生えてきた当初のままの「天然歯」、虫歯の治療で部分的に白い詰め物をした「修復歯(しゅうふくし)」、白い被せもので覆われた「補綴歯(ほてつし)(差し歯)」、そしてインプラントや入れ歯などの方法で失われた歯を補う「人工歯」と、それぞれの歯に歴史があり、様々な状況が混在するのが、ミドル・シニアの歯の特徴といえます。
さて、ご自身の歯はどうだったでしょうか?
「そういえば、いつか虫歯の治療をしたことがあったかも・・」
「なんか、どこかの前歯の神経を抜いたことがあったな・・・」
「あれ、差し歯だったのはどの歯だったかな・・?」
意外と記憶は曖昧なもので、それも無理ないことです。前歯であれば生え揃う時期は概ね10歳前後ですから、そこから何十年余りの間の治療歴など覚えてられないのが当たり前。
逆に記憶がはっきりしているのは、「わたしは今まで(1本も)虫歯になったことがありません!」という方です。
そんな方のお口の中を拝見すると、滑らかに光る立派な天然歯が並んでいます。ただ、そのような丈夫な歯であっても、歯のひび割れや擦り減りといった、これまで歯に加わってきた力の痕跡がどこかに刻まれています。そして、そういった場所には必ずと言っていいほど着色が見られます。また、つややかに光っていてもその色合いには年季が入り、やや濃色・暗色であったりします。
このように、治療歴をはじめ、これまでに生じた様々な変化が刻み込まれているミドル・シニア層の歯。そんなミドル・シニアの歯に再び明るさと透明感をとり戻すのが、歯のリフレッシュ(医療ホワイトニング)です。
「そう言われても、やっぱり自分の歯でないとホワイトニングは無理ですよね・・・」
ミドル・シニア層の患者さんからよく聞かれる質問です。たしかに、ホワイトニング剤は原則として人工物には変化を与えませんので、修復歯であれば詰め物の部分、そして補綴歯(差し歯)や人工歯などには効果を期待できません。ただ、だからと言って諦めてしまうには早すぎます。
写真は70代の方です。歯の黄ばみが気になっているご様子でしたが、よくお話を伺ってみると、「差し歯とそうでない歯(天然歯)とで色が違って目立つので差し歯と同じように白くしたい」というのが本当のご希望でした。
この方のように、補綴歯(差し歯)と天然歯が混在するケースでは、かつては周囲と色合わせしたはずの差し歯が、年月とともに天然歯の色のほうが変化してしまい、かえって白浮きしてしまうということが起こります。そんなときホワイトニングを行うことで、天然歯にかつての色味が戻り、結果としては歯全体の白さを取り戻すことができます。
こちらは60代の方の写真です。この方は、上の歯がすべて補綴歯であるため色が全く変化しない分、下の歯の色が気になるご様子でした。この場合も、天然歯である下の歯の色味を回復し、上の補綴歯との色合いの差を無くすのが目標となる点で、先ほどのケースと同様です。ただし、ここで気をつけなければならないのが、シニアの歯の特徴である「ひび割れ(亀裂)」あるいは「すり減り(咬耗)」です。
ご覧のように、下の前歯を見ると、ずいぶんとすり減っていらっしゃることが分かります。このような歯と歯のかみ合わせによるすり減りのことを「咬耗(こうもう)」と呼んでいます。また、歯がすり減るということは、それだけ強いかみ合わせの力を受け続けてきた結果ですので、歯の表面にひび割れを伴うことも少なくありません。この歯のひび割れのことを歯の「亀裂」と言います。
ここで加齢による歯の変化について簡単に触れておきましょう。
「咬耗」によってすり減っていくのは歯の外側を覆っているエナメル質です。エナメル質がすり減るとその下の象牙質が透ける、あるいは露出するようになります。実は歯の色は、エナメル質を通した象牙質の色であると言われ、エナメル質自体はすりガラスのように半透明で色味はほとんどありません。いっぽう象牙質はやや黄色がかっていて、この色味には個人差があり、歯の部位によっても差があります。加齢による影響も受けます。咬耗した歯は、より内部の象牙質の色が見えているということになります。それに対し歯の「亀裂」は表層のエナメル質から入り、加齢とともに増加します。こうした歯の表面のひびにも徐々に色素が入りこみ、蓄積し、半透明であったエナメル質も有色となっていきます。このように、年月を経たシニアの歯(天然歯)には複雑な変化が起きています。また一般に象牙質はその内側にある歯髄(歯の神経)へ刺激を通しやすいため、象牙質が露出する咬耗部や象牙質に通じる亀裂があると、歯がしみて痛いというような知覚過敏症状を起こしやすいと考えられます。したがってホワイトニングを行う場合は、個々の歯に対する事前の診査と、施術の際のきめ細やかな対応が求められます。
さきほどの方も、大きな咬耗による象牙質の露出が多く認められましたので、患者さんの状況を確認しながらホワイトニングの方法を調整することによって、歯がしみるといった不快症状を起こすことなく、写真右のような結果を得ることができました。
このように、それぞれの方のお口の状況に合わせたオーダーメード対応のホワイトニングができるという点が、医療ホワイトニングの大きな特徴です。
もう一例、こちらは50代の方です。
上下ともご自身の歯でお手入れもよくされていて、口腔衛生の観点からは申し分ないと思われましたが、一度試してみたいとのご希望でホワイトニングを行いました。
その結果、元々備わっていた歯のつやが失われることなく、透明感が増して歯の色が明るくなり、歯ぐきの色とのコントラストが変わったことで、健康的で瑞々しいお口元になりました。意外に思われるかもしれませんが、口元が若く見えるために歯の色は白ければ白いほど良いというものでもありません。むしろ、歯の透明感や明るさ、そして歯ぐきの色とのバランスが大きな影響を与えます。歯のホワイトニングには、ご自身の歯を傷つけることなく本来の色に戻す効果がありますので、いわば歯の経過時間を「巻き戻す」ことができます。
いかがでしたでしょうか。ホワイトニングを体験されたミドル・シニアの皆さんからは「なんとなく自信がついた」「物事に前向きになった気がする」「友人と会うことが増えた」などの声をよく聞きます。そして歯科医として嬉しく感じるのは、ホワイトニングをきっかけにして、皆さん「素敵な口もと」をキープするために、より口腔衛生に積極的に取り組まれるようになる、ということです。人生100年時代と言われますが、健康で長寿をまっとうしたいというのが、どなたにも共通する願いだと思います。そのために「食べること」「会話すること」を担うお口の役割が非常に大切であることは言うまでもありません。今ある歯を失わないため、虫歯予防・歯周病予防の重要性はすでに多く語られているところですが、さらに一歩加えて、歯のリフレッシュ(若返り)としての医療ホワイトニングという方法があることを、このコラムを通して知っていただければ幸いです。
医療法人社団 楓樹会
棚田歯科医院 副院長
加藤(守矢)佳世子先生
所属学会
日本小児歯科学会
日本レーザー歯学会(専門医・指導医)
日本審美歯科学会
略歴
平成6年
東京医科歯科大学歯学部卒
平成14年まで
東京医科歯科大学歯学部付属病院小児歯科勤務
平成23年まで
都内中心に複数歯科医院勤務
平成24年より
東京都北区にて開業
代表著作
『一からわかるレーザー歯科治療』(医歯薬出版)
『これで納得デンタルホワイトニング』(同)