「ウバザメ」というサメがいる。漢字では「姥鮫」と書く。彼らの特徴は胸ビレの前に位置する大きな5つの鰓エラ。それが老婆の皺に見えたから、そんな名前がついたといわれているが、その由来は定かではない。
ウバザメは最大12mにもなるといわれている巨大ザメ。昔は日本近海にも多く見られたというが、今では絶滅が心配されている生物のひとつ。ホホジロザメに見間違われることもあるが、彼らはプランクトンしか食べないサメの一種であり、ホホジロザメのように鋭い歯で噛みついてくることもない。ゆったりと水面を泳いでいることから、英語では「Basking Shark」=日光浴をするサメなんていう愛らしい名前で呼ばれている。
プランクトン食のサメは捕食の際に歯を使わない。その代り、彼らは「鰓さいは耙」という特殊機能を持っている。それは2mm幅で薄べったく、細い櫛のようなものが鰓の内側にびっしりと並んでいるのだ。触ってみるとプラスチックのような硬さと弾力があり、ここで大量のプランクトンを濾し取っている。サメ以外にも同じような機能を持つ生き物がいる。それはヒゲクジラの仲間。プランクトン食の彼らはいわゆるクジラのヒゲといわれる部分で、プランクトンを濾し取って食べている。
2016年3月29日のこと、横須賀の佐島漁港でウバザメが水揚げされた。わたしはすぐに現地へ駆けつけた。残念ながら、既に解体されてしまった後だったのだが、水族館が研究のために持ち帰ったという頭部の写真を見せてもらった。彼らは索餌に使わないものの、写真には写らないほど小さな数mm程度の歯を持っている。だから、その写真に写るウバザメの口は、歯がまったくないように見えてしまって、もしかしたら、ウバザメの名前の由来は、サメのシンボルともいえる歯が全部抜けてしまったように見えるところからきているのではないかと、ふと思った。