お歯黒のサメ?! ~化石、それとも現生のサメ歯か?~

No.164

友人のスリランカ人から、あるプレゼントを頂いた。小さな箱を開封してみると、1.5cmくらいの小さなものが5つ(写真A)。よく見てみると、尖ったエナメル質の部分と歯根部分がある。友人いわく、スリランカで1個体だけ記録のあるメガマウスザメの歯だという。このような貴重なサンプルは、シャークジャーナリストのわたしにとってはこの上なく嬉しいプレゼントなのだ。

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写真A 現生のメガマウスザメの歯。膨らんでいる部分が歯根で、尖っているほうは人間でいう歯冠の部分。

しかし、サメの歯を見慣れているわたしからすると違和感があった。なんだろう。それは色だった。メガマウスザメの歯が灰色だったのだ。一般的に、現生のサメの歯の色は、白やクリーム色。化石化された歯だと灰色のものがあることは知っていたが、現生のサメでこのようなものは見たことがなかった。なぜ、白ではないのか。

 

 

 

 

2017年5月に千葉県館山市の定置網に迷い込んだメガマウスザメが発見されたときには(その後死んでしまったのだが)、幸運にも海底から引き上げる作業に同行することができた(前号参照)。作業ダイバーが海底で引き上げ作業の準備している数分の間だけ、メガマウスザメの口の中を観察する許可をもらうことができた。すでに死後硬直していたので、わたし一人の力では口を開けることができなかった。そこで、男性ダイバーの助けを借りて、精一杯の力で口を上下に開いてみた(写真B)。

 そのとき、男性ダイバーの手のひらから流血。よくよく見ると、メガマウスザメの口には小さいトゲのようなものがたくさん生えていて、それが手に突き刺さり、負傷したのだということがわかった。前号では、メガマウスザメはプランクトン食のサメであり、オキアミのような浮遊生物を効率よく食べるため、濾しとる鰓さいは耙という器官があるという話を書いた。プランクトン食のサメに鋭い歯がある理由はよくわからないが、またとないチャンスだったので、流血したダイバーをそっちのけで口の中を観察してみた。

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写真B 筆者とメガマウスザメ(水中)。

まず、注目したのがメガマウスザメの皮膚の色だ。皮膚だけでなく口の中も歯茎も灰色ないしは黒色だった。さらに観察して面白いこともわかった。それは、歯が歯冠部分のほとんどまでもが歯茎に埋まっていて、尖った先っちょがほんの少しだけ皮膚を突き破って出てきているという感じだったからだ。これはプランクトンを食べるための摂餌行動に何か有利に働くのだろうか。はたまた全然違った理由なのか。こればっかりは、まだメガマウスザメの摂餌行動すらをも世界中の誰も見たことがないのでわからない。歯が灰色の理由は何だ?

 プランクトンを食べている(と考えられている)のに尖った歯を所有している理由は?

 まったくもって未知なる生物、サメ。このあたり、お詳しい方がいらっしゃったら教えてください。よろシャーク(私の合言葉。「よろしく」の意味です!)。

取材・写真協力 波左間海中公園

著者

沼口麻子

サメのジャーナリスト
(沼口/浅子)

沼口麻子(ぬまぐち・あさこ)

シャークジャーナリスト

1980年東京生まれ。東海大学海洋学研究科水産学専攻修士課程修了。小笠原諸島のサメの研究を経てサメに特化した情報発信を行っている。テレビ、ラジオ、雑誌等にて活躍中。2014年より東京コミュニケーションアート専門学校(海洋生物保護専攻)にて講師。両親ともに歯科医師。

【連載】

〈雑誌〉月刊マリンダイビング「サメの魅力」(水中造形センター)

〈WEB〉現代ビジネス「サメに恋して」(講談社)

サイト「SAMECUISE」(サメクルーズ) プロデュース