冬が近づいてくると、乾燥肌でアトピー性皮膚炎持ちのわたしは、皮膚がぼつぼつになる。その部分を手のひらでなでてみると表面がざらざらしていた。こんな状態を一般的には「サメ肌」というらしい。サメ好きのわたしからしてみると、「サメ」という言葉をあまりいい意味で使っていないのが気になるけれど、一方で、日本人は昔からサメの皮膚がざらざらしていたことを知っていたのだなぁとも思う。
では、実際にざらざらしているサメの皮膚、いわゆる「サメ肌」は、どこでどんな風に使われていたのか。有名なのはお侍さんが使っていた刀の柄である。どんなに血のりがついても、水に強く、ざらざらしているサメ肌は滑り止めにもなり、重宝したとか。また、サメ肌特有の立体的な配列も人気で、ある時期は大流行して、刀の柄を作る目的で、ベトナム辺りからこのサメの仲間を積極的に輸入していたという記録もある。
それから、やすりとしても使用されていたようだ。例えば、浮世絵に使う刷毛を職人が使いやすいようにすく作業にもサメ肌が使われていたし(浮世絵師はサメの一枚皮を板に貼付けたものを使っている)、東京都練馬区の特産物である練馬大根を干す際にもサメ肌で大根の表面を傷つける作業が行われていたという。これは、いい塩梅で乾燥させるためになくてはならない過程だったそうだ。調べていけばもっともっといろんなところでサメ肌は利用されているのかもしれない。
今現在でも目にするのは、わさびおろしだろう。おろし金の部分に本物のサメ肌を使っているものだ。静岡辺りの粋なお蕎麦屋さんなんかだと、生わさびと一緒にサメ肌わさびおろしが出てくることも少なくない。
このざらざらなサメ肌。一体全体何なのか。顕微鏡でみてみると、小さなトゲ状のウロコのようなものが表皮から突き出ていることがわかる。その成分はなんと、エナメル質、象牙質。そうなのだ。歯とまったく同じ構成でできている。サメ肌の正体は「歯」なのである。全身が小さな歯で覆われている不思議な生き物。それがサメなのだ。