歯医者をしながら女優をしています ~職業病~

No.149

149テレビをみていると、ついつい頭に目がいってしまうんですよね。職業病です」

 先日、バラエティ番組で「医者ぶっちゃけ大連発」というコーナーがあり、ゲストとして出演していた植毛を専門とする形成外科医のお医者さんが、こんなことをしみじみと言っていた。

 思わず心の中で「わかる!」と合いの手を入れた。

 私も日頃テレビに出ている人たちの歯が気になって仕方がない。「この人、差し歯だ」「なんで矯正しないんだろう」「前歯の色が違いすぎる」

 いつもこんなことを画面に向って独りでつぶやいている。

 テレビだけでなく、初対面の人と会うときも、まず相手の口元を見てしまう。無意識のうちに歯を基準にしてその人に点数をつけている。むし歯があるだけで、どんな高級なスーツを着ていても、すてきなバッグを持っていても、大きく減点だ。仕事のできる人も、たちまちだらしないダメな人に見えてしまう。

 あまり気にするのもどうかと思うが、気になるのだからどうしようもない。密かに、同じ悩みを持っている同業の人も多いはず。歯科医の職業病なのだろう。

 特に外見に気を使わざるを得ない芸能人だからこそ、ホワイトニングをしたり、差し歯に替えたりして、いろいろ工夫を重ねている。

 ところが、番組の中で歯の治療について言及するのはどうやらまずいことらしい。そのことを知ったのは、ある番組で明石家さんまさんと共演したときだった。

 さんまさんに私から質問する番がまわってきた。「さんまさんの歯ってきれいですよね。最近全部新しく治したんじゃありません?」

 一瞬、おかしな空気がスタジオを包んだ。さんまさんは私の問いかけを完全にスルーし、話はすぐに他の話題に移った。オンエアでは私の質問自体がカットされていた。

 さんまさんが出っ歯であることは、本人もネタにしている。しかし、歯を治していることについては触れるべきではなかったのだろう。それ以降、テレビに出演しても共演者の歯については何も言わないようにしている。

 それにしても、歯を治したことはそこまで隠すべきタブーなのだろうか。

 むし歯やガタガタの歯を放置しておくよりも、ちゃんときれいに治したのだから自慢できることだと思うが、芸能界だけでなく、一般社会でも歯について話すのは恥ずかしいことだと考える人が多い。

 もっとオープンに歯のことについて語り合えればいいのに。歯のことになると、たいてい「実は……」と小声で相談される。

 美容院から帰ってきたときのように、歯科医院での治療を自慢できる社会になれば、歯科治療へのマイナスイメージも減るかもしれない。

 

 ドン小西やピーコのファッションチェックのように、「この人の歯は何点?」といったようなトゥースチェックコーナーの執筆依頼が来ないかと密かに期待している。いつの日かお役に立てるよう、今日も私はテレビで同業者の歯のチェックに励んでいる。

著者

一青 妙

歯科医師・女優
(ひとと・たえ)

一青 妙 (ひとと・たえ)

1970年生まれ。父親は台湾人、母親は日本人。幼少期は台湾で育ち、11歳から日本で暮らし始める。 歯科医師として働く一方、舞台やドラマを中心に女優業も続けている。 また、エッセイストとして活躍の場も広げ、著書に『私の箱子(シャンズ)』(講談社)がある。