歯が折れた
歯の破折では、その部位が歯中央の軟組織である歯髄に及んでいるかどうかで処置が異なります。破折部位が歯の先端に近く歯髄が露出していなければ、失われた部分をそのまま接着性コンポジットレジンなどで修復することができます。折れてしまった片割れが利用できれば、さらに審美的かつ機能的な修復が可能です。
一方、破折部位からピンク色に歯髄が透き通ってみえたり、すでに出血している(露髄=ろずい)際には、歯髄の一部を滅菌下で除去し薬剤を貼付してから(部分的生活歯髄切断法)、同様に歯の形を修復します。永久歯が萌出しても3年以内は、歯髄組織に誘導される歯根形成が持続しており、歯髄の完全除去は好ましくありません。受傷してから1日以内であれば、露髄面から細菌が歯髄深部まで感染していることはなく、部分的生活歯髄切断法は極めて高い成功率が期待できます。
瞬時に歯を折るほどの強い外力は、歯髄全体や歯周組織にも何らかの影響を及ぼしたことも予想されます。数ヶ月後に歯が変色してきたり、歯根外形の一部が吸収されることも時にあります。受傷後最低でも1年ほどは、定期的な歯髄生活反応診査やレントゲン撮影などの注意深い予後観察が必要です。
ぶつけた歯がぐらぐらする
歯の怪我(外傷)の影響は、歯そのものへ損傷の他に、歯を支える組織である歯根膜繊維や歯槽骨などへの損傷という形で表われます。歯は動揺しているものの元の位置にとどまっている場合を亜脱臼、歯の位置まで動いた場合を脱臼と呼んでいます。脱臼は歯が動いた方向により、挺出(上方へ)、埋入(下方へ)、転位(水平へ)に分けられます。
亜脱臼が軽度な場合、硬いものを噛まないなど安静にしていれば、動揺は1週間以内で収まってきます。しかし、咬合痛により食事がうまくとれない場合、健康な両隣在歯を含め、添え木のような物(ワイヤーレジンスプリント)を接着させて、歯を2,3週間固定する必要があります。脱臼では、歯を歯槽骨内の本来の位置に戻してから(整復)、3,4週間以上固定します。脱臼のうち咬合を妨げない埋入では、歯の再萌出を期待して、特に処置をせず経過観察することもあります。
固定期間中は歯を安静にすること、清潔に保つことが大切です。歯周組織の回復には、歯垢付着による歯肉の炎症を極力避けるべきです。処置直後は含嗽剤(がんそうざい)を使用し、腫れなどが治まってきたら、柔らか目の歯ブラシを用い、固定装置直下の汚れ、歯と歯の間の汚れなどを、いつもより時間をかけて清掃してください。
ぶつけた歯が抜けた
不幸にして歯が抜け落ちてしまっても、抜けた歯の保存状態や歯科医にかかるまでの経過時間によっては、歯を元の位置に戻し、長期間機能を営ませることができます(再植)。歯を乾燥させないこと(歯根膜繊維の生存)、再植固定まで2時間以内が一応の目安となります。
歯を湿潤状態で保存するといっても、水道水に浸しては歯根膜繊維の生存は望めません。身近に使える溶液としては、牛乳がよいとされています。また、学校の保健室には市販の歯の保存液が常備されていることがあります。歯髄を除去し、根管を人工物で封鎖(根管充填)してから再植固定するのが一般的ですが、萌出してから2,3年以内の根未完成永久歯では、歯髄の再生が期待できる可能性も僅かながらあります。
歯根膜繊維の歯槽骨への生着には、固定期間が比較的短い方が有利なようです(1週間から10日)。歯根膜が生着しないと歯根は直接歯槽骨と癒着し、再植歯と隣りの歯との高さが年々違ってきます。また、著しい歯根吸収をおこし1,2年以内に抜去せざるを得ない場合もあります。しかし、歯列咬合の成長期に、入れ歯などでなく自前の歯で過ごせることは子どもにとって福音であり、再植の意義は極めて高いといえます。