健康な口の機能を正しく育てることで、健全な歯並びや咬み合わせが得られます。歯の生える前の哺乳期から乳歯が生え始める時期である離乳期を経て、食べる機能(摂食機能)を獲得する過程で乳歯が生え揃っていきます。全ての乳歯が生え揃う3歳頃からは、食品を唇で捕らえる、前歯で嚙みきる、奥歯ですりつぶす、食品を唾液と混ぜ合わせて食塊を作る、飲み込むという一連の機能が習熟していきます。このような機能の発達がうまく行われることが、理想的な口元や歯並びを形作る条件になります。そして機能の発達と形態的な成長は車の両輪のように切り離すことができません。また哺乳から咀嚼機能を獲得する過程で嚥下(飲み込む)機能も変化します。このように摂食機能は人生の最初の時期である乳幼児期に大きく発達を遂げて、基本的な口の機能を身につけます。
赤ちゃんは食べることが苦手。離乳食を嫌がる、食べこぼしが多いなどたいへんですよね。実は赤ちゃんのお口のかたちはミルクを飲むこと専用。赤ちゃんは離乳期を通して食べる動作がしやすいお口に機能とかたちを変化させながら、もぐもぐごっくんの方法を覚えてゆくのです。
口元のかたちや歯が生える場所は歯や唇、舌、頬の筋肉が互いに押し合いながら、絶妙な力のバランスで決まってゆきます。歯並びだけでなく 口元や顔つきも変化させます
乳歯の直下にある永久歯が発育し生える(萌出=ほうしゅつ)運動を開始すると、乳歯の歯根を溶かし吸収(歯根吸収)し始めます。一般に、乳歯の歯根吸収は2,3年ほどかけて徐々に起こり、最終的に乳歯は、ほぼ歯冠を残すのみとなって抜け落ちるのが普通です。最初に起こる下顎乳中切歯の交換は、早い子どもでは5歳半頃から始まり、平均的には6歳過ぎとなります。
乳歯は生後半年過ぎに下の前歯から生えてきて、お誕生日の頃までに上下切歯4本づつ、3歳までに臼歯を含めて全部で20本生え揃うのが普通です。多少の遅れは気にかける必要はありませんが、1歳を過ぎても生えてこないようなら、歯科を受診なさることを勧めます。
それでは、口の機能はいつ育つのでしょうか?
乳幼児期(0~6歳頃)に最も大きく育ちます。この時期に口の周りの機能と形態は著しく変化します。
赤ちゃんは教わらなくても上手にミルクを飲むことができます。いっぽう 口から食べることが上手になるためには、それに適したお口のカタチに成長することと習熟が必要です。
知っておきたいのは乳幼児期から小児期にかけて
・お口の中に生えている乳歯や永久歯の本数がどんどん変化
・お口のカタチや大きさも成長に伴って変わる。
→なので
食べる機能や能力は月齢や年齢によって違うということです。
離乳の時期によってはお口の機能・かたちが追い付いていないので食べることがそもそも無理な食材もあります。離乳はお口の中の様子を見ながら進める必要があります。
平成7年4月より学校保健法の施行規則一部改正に伴い、学校における定期健康診断では、従来の「疾病の早期発見・治療勧告」という考え方から、「心と体の健康つくり」を指向するようになりました。歯科健診もこれに呼応して、むし歯の検査に要観察歯CO(シーオー)の概念を導入しました。
むし歯は、食生活のあり方がかかわる生活習慣病の一つであり、様々な因子がその発生や進行に関与しますが、基本的には細菌による感染症です。したがって、むし歯は子どもにうつるということもできます。
赤ちゃんは無菌状態で産まれてきて、その後ヒトに棲む様々な常在菌に感染し、共生するようになります。むし歯の原因菌も口腔常在菌の一種で、その口腔への定着には歯が充分生えていることが必要であり、乳幼児期の前半に感染するのが一般的と考えられます。そこで、子どもがもっているむし歯病原菌のタイプを周囲の保育者のそれと比較してみますと、母親と一致すること(垂直感染)が最も多いと報告されています。離乳食や幼児食の初期に、スプーンやお箸を共有したり、食物を口移しで与える機会があることによるのかもしれません。
通常の発達をしてる子どもでは、5歳の終わり頃までに舌っ足らずの幼児性の発音から成人の発音に移行します。5歳以降で発達の遅れや聴力の異常がない状態で発音に問題がある場合、次のような歯科的な原因によることがあります。歯科における対応が困難な場合には、小児科や言語聴覚士による専門的な評価が必要となる場合もあります。
(1)指しゃぶりなどの口の周りの癖によって歯並びや噛み合わせの異常を生じて唇を閉じにくい。(乳歯列開咬、図4)
全ての乳歯が生え揃う3歳以降も癖が続いている場合には、本人に対して説得を行い癖の中止を試みる必要があります。歯科において相談を受けてください。早期に癖が中止されると噛み合わせの異常は改善してきます。
赤ちゃんは教わらなくてもじょうずミルクを飲むことができます。いっぽう 口から食べることが上手になるためには、それに適したお口のカタチに成長することと習熟5歳の終わり頃までに舌っ足らずの幼児性の発音から大人の発音ができるようになります。5歳以降で発達の遅れや聴力の異常がない状態で発音に問題がある場合は医療機関に相談してみましょう。以下のような歯科的な問題が原因のこともあります。このような場合には歯科を受診されるとよいでしょう。歯科による対応が難しいケースでは小児科や言語聴覚士による評価が必要な場合もあります。
本来はゆるやかな曲線上に並んで配列すべき個々の歯が、でこぼこしていたり重なっている状態を叢生といいます。6歳から8歳にかけて萌出する永久切歯の幅径は、上下顎とも乳切歯より大きく、左右4本を合計すると上顎で7mm、下顎で5mm以上も異なります。しかし、ヒトにはこれをある程度補償する歯列咬合の発育機構が備わり、すべての小児が切歯交換期前後に叢生になるわけではありません。
おしゃぶりの長期使用と同様、指しゃぶりを3,4歳を過ぎても続けていると、歯列形態に特異的な変化が認められ、発音にも影響しかねません。上あごの切歯が少し前に出て本来U字型の歯列弓がV字型となったり、上下切歯がかみ合わず隙間ができて開咬となったりします。ただし、4歳頃までに指しゃぶりをやめれば、形態の異常が自然に治ることも報告されています。
これまでの説明のとおり、歯並びや顎の形態は成長発育期の口の内外の筋肉のバランスによって大きく影響を受けます。安静にしている時は、口を結んで鼻で息を吸ったり吐いたりをすることが本来の呼吸の仕方です。その時、上下の歯の間は数ミリの隙間があり、舌は上あごに緩やかに密着しています。口を結んでいる場合に唇と頬の筋肉は歯並びの外側から緩やかに力を加えています。成長期において、1本1本の歯は口の内側と外側の筋肉のバランスのとれた位置に生えてくるようになっています。成長発育期において、理想的な歯並びは安静にしている時の舌の形(きれいなU字型)に沿って作られます。
それでは、絶えず口をポカンと開けて息をしている口呼吸の場合ではどうなるでしょうか?
安静時は鼻から息が基本 口呼吸(こうこきゅう)していませんか?
呼吸に関する機能と口呼吸の歯並びや口元への影響成長発育期の歯並びや顎の形は舌や唇、頬の筋肉の絶妙な力のバランスによって影響をうけます。安静時の呼吸の基本は口を結んで(吸う、吐くともにに)鼻からすること。その時 上と下の歯の間にはわずかにスキマがあり、舌は上あごに緩やかに密着しているのが基本のポジション。このような状況のもとでは歯は安静時の舌の形に添ってきれいなU字形に生え揃います。
歯の破折では、その部位が歯中央の軟組織である歯髄に及んでいるかどうかで処置が異なります。破折部位が歯の先端に近く歯髄が露出していなければ、失われた部分をそのまま接着性コンポジットレジンなどで修復することができます。折れてしまった片割れが利用できれば、さらに審美的かつ機能的な修復が可能です。
歯をぶつけた後、色が変わってくるのは、歯中央の軟組織である歯髄が変性したことをあらわします。ただし、ぶつけた直後と2,3カ月以降におこる変色では意味合いが異なります。ぶつけた直後の淡い変色は、いわば歯髄の内出血と考えてよく、多くの場合自然に消退していきます。これに対して、2,3カ月以降に観察されてくる灰褐色の着色(写真参照)は、歯髄の活性が徐々に失われ歯髄死に至る(失活)兆候を示します。
子どもの成長発育には個人差があります。歯の生える時期にも大きな差があるため、口の中の環境も異なり、口の機能の獲得時期にも個人差があります。
日本小児歯科学会で実施した日本人の子どもの歯の生える時期に関する全国調査の結果からも、子ども歯の生える時期には大きな個人差があることがわかります(図16 乳歯列、図17 乳歯萌出開始時期、図18 永久歯列、図19 永久歯萌出開始時期)。
上下左右あわせて乳歯は合計20本 永久歯は28本生えます。子供の成長発育に個人差があるように歯が生える時期にも子供によって大きな幅があることが最新の調査でもわかりました。
ということは、月齢が同じだから同じような離乳食が食べられるというわけではないということです。お口の中に生えている歯の本数が違っていたとしたら当然です。
離乳期はお口から食べることをトレーニングする時期ですが生えている乳歯の本数によって食べられるもの 食べにくいものが違ってきます。離乳が遅いのは単にまだ食べるための機能が整っていないからかもしれません。
10歳から12歳ころにも注意乳歯の奥歯が生え代わる時期には食べ物をすりつぶす歯の本数が一時的に減ります。ということは食べることが苦手な時期でもあるということを知っていてください。場合によっては食べ物の大きさを調節するなどの配慮が必要です。
ヒトの永久歯は、親知らず(智歯)を含め32本あります。しかし、特に原因がなくて、永久歯を1,2本生まれつき欠く(先天欠如)ことがあります。日本人では、智歯を先天欠如する割合は30%前後、それ以外の永久歯は1〜9%と報告されています。智歯以外では、上下顎第二小臼歯、下顎中切歯、上顎側切歯などが欠如しやすいようです。
2015年に日本歯科医学会重点研究委員会で実施した「子どもの食の問題に関する調査」で、未就学児の保護者の50%以上に、子どもの食事に関する心配ごとがあることが判明しました。同調査によれば、「偏食」や「食べるのに時間がかかる」、「むら食い」、「遊び食い」など食行動に関する項目が多く見受けられました。このような困りごとは、食べる機能の問題と関連していることが多く、歯科におけるアドバイスや指導で改善することも珍しくありません。以前から全身的に何らかの病気があって、食べる機能に障害をもっている子どもに対する摂食機能療法は、公的医療保険の対象となっていて、歯科において食べる機能の訓練を受けられていました。その一方で、全身的な病気や障害のない子ども(定型発達児:いわゆる健常児)の場合、食べる機能を含めた口の機能の訓練は、保険診療の対象とはなっていませんでした。そのため、2018年の3月まで、口の機能発達に関する指導や訓練は、保険外の自費診療で受けるしかありませんでした。