和をもって貴しと成す


image-20220509191255-1 今年もいろいろなことがありましたが、年末のとびきり華やかなニュースといえば、年末にトータル330.43点という驚異的なスコアで男子フィギュアスケート・グランプリファイナルを三連覇した、羽生結弦選手。
 得点が表示されたとき、一瞬、顔を覆って泣き伏した後、横にいるカナダ人コーチに「Why am I crying?」と泣き笑いで語りかけた姿も爽やかでしたね。

 羽生選手のフリープログラムは「和」を意識した『SEIMEI』。
 平安時代の陰陽師、安倍晴明を演じた鬼気迫る演技でしたが、美しい容姿でひらりひらりと舞い上がる姿は、牛若丸のようでもありました。
 「和」は常にグローバルスタンダードで考え、戦っている若き絶対王者羽生選手のアイデンティティーでもあります。

 実は、安倍晴明の宮中での最高の職階は、陰陽頭でなく天文博士です。
 唐から伝わった天文学を深く学び、天皇に暦の管理を任された、当時の最先端の科学者です。
 天変地異さえ悪霊の仕業と考えられた平安時代ですから、悪霊と戦う晴明の占いの才能が重視されたのは当然ですが、それも天文学で鍛え抜かれた世界レベルの計算能力あってのことでした。

 ちなみに「和」のルーツは3世紀末の魏志倭人伝。古代中国の書記官が「わじん」と記録したのは、古代の日本人が「自分たち(一人称複数)」を「わ」と呼んでいたから、という説が有力です。

 日本最古の憲法、「十七条の憲法」で「和をもって尊しとなす」と最初にうたったのは、古代日本政治の絶対王者、聖徳太子です。
 その「和」は、「人が自分の意見と違うからといって、怒ってはならない。人にはみな心があり、それぞれ正しいと思う考えがある。相手が怒ったら、省みて自分の過失を恐れよ。(第十条)」という現実的なものでした。

 人が協調して社会を創るのは、いつの時代にも難しいこと。
 今年はパリの同時多発テロなど、誰がどこで戦争に巻込まれるかわからない恐怖を、世界中の人が味わった一年でもありました。

vol275_2.gif  でも、羽生選手が外国人スタッフと信頼し合い、世界中のライバルと血のにじむような努力で競い合って、誰よりも高く美しく舞いながら、日本文化の伝統や東日本大震災の慰霊を観客の心にまっすぐ語りかける姿を見ていると、若い人たちの創る未来に希望が持てる気がします。

 皆様、美しい新年をお迎えください。

 

コラムニスト 鈴木 百合子

 

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