9月8日未明、2020年の夏季五輪の開催地が東京に決まりました。
今回のオリンピック誘致の決定打となったのは、45分間のプレゼン。皆さんよかったけれど、特に滝川クリステルさんの「オモテナシ」はキュートでしたね。
日本のプレゼンの冒頭で、明晰なフランス語と完璧なBBC英語で、「東北大震災のとき、IOCの支援は子どもたちに笑顔を、若い選手には希望を与えてくれました」と述べた高円宮妃久子さまの謝辞も印象に残りました。
久子さまが凛とした気品と優しい笑顔で会場の雰囲気を包みつつ、日本人の深い教養と礼儀正しさを示す格調高い挨拶をなさったからこそ、IOCの委員が、後に続くチーム日本のプレゼン内容を信用できたのでは、と思います。
オリンピック開催は、スポーツ振興や内需拡大だけでなく、日本の存在感を世界に示していく大きなチャンスです。経済団体首脳らは「感慨の極み」「日本に元気をもたらす」などのコメントを寄せ、そろって歓迎しています。ご存知の通り、1964年大会に牽引されたオリンピック景気は、その後の高度経済成長、経済大国の基盤につながりました。
子ども達に「スポコン(スポーツ根性)漫画」が大流行したのも、前大会の影響でした。
1966年に連載が始まった「巨人の星」もその一つ。いつかスター選手として活躍する日を夢見て、血のにじむような努力をひたむきに重ね、裕福で才能あふれるライバルと戦いながら夢に立ち向かっていく主人公・星飛雄馬は、当時の日本の子供たちに大人気でした。
くしくも今、「巨人の星」をリメイクした日印合作の「スーラジ ザ・ライジングスター」が、高度経済成長期まっただ中のインドの子供たちの人気を集めています。
これはクールジャパン政策の一環で、インド版「巨人の星」は、主人公や物語の舞台を日本からインドへ変更する「ローカライズ」という手法で制作されています。高視聴率の第一作が6月で終了後、続編を制作中。ヒンディー語以外の言語にも吹き替えて放映することも決まっています。
当時のスポコン漫画のスパルタ教育礼賛は、インドの子どもだけでなく、今の日本の子どもたちにも違和感があるでしょう。でも、ひたむきな努力の価値は変わりません。
欧米人よりかなり体格も小さかった敗戦国ニッポンの子どもたちが、「自分だって、大きな美しい夢を持てる。自分の限界まで努力すれば、その夢をつかめる」と希望を持ち、正々堂々とライバルと競い合う自信を持ったこと、そして本当に豊かな社会を実現できたこと。それが、前回の東京オリンピックがくれた最高の贈り物だったのだと思います。
オリンピックは美しい夢。東京オリンピックが今の子供たちの大きな希望となるよう、私たち大人も背筋を伸ばして努力しましょう。
コラムニスト 鈴木 百合子
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