口臭

 

口臭

 


  口臭とは                              

口臭英語では、口臭のことを “Bad breath(悪い息)”と表現します。また、口臭がものすごく強い人を“Dragon breath”といいます。ドラゴンが口から火を噴いて人を威圧するように、強烈なにおいを発する人は周囲の人から嫌われてしまいます。診断名としての口臭症は“Halitosis”ですが、その語源は、『息』を意味するラテン語のhalitusと『異常な状態』を意味するギリシャ語の-osisにあると考えられています。すなわち、呼吸や会話をする時に口から出てくる息がにおって他人が不快に感じる状態が、「口臭」ということになります。
 

しかし、「口臭」があるといってもその程度や頻度は人によって異なります。起床直後やにおいの強い食品を食べた後などは、誰でも多少においがあるものです。このようなにおいは生理的口臭、食餌性の口臭ですが、通常、そのようなにおいは時間の経過と共に減少していきます。問題となるのは、病気によって発生する口臭です。口の中の病気、鼻やのどの病気、呼吸器系の病気、消化器系の病気などが口臭と関連していると考えられていますが、口の中に原因があるものが口臭全体の90%以上を占めています。ですから、口臭が気になったら、まずは歯科医院で相談されるといいでしょう。


 

  年齢・生活習慣と口臭                     

口臭を気にする人の割合は、15~24歳で7.6%、25~34歳で10.1%、35~44歳で17.7%、45~54歳で20.7%と年齢が高くなるにしたがって増加し、それ以降の年齢では減少しています。これは口臭に対する自覚症状を聞いたものなので、実際に口臭があるかないかを調べたわけではありません。

一般的には、口臭のある人は年齢とともに多くなる傾向が認められます。これは、口臭の原因である歯周病にかかる人の割合が増えること、また、むし歯や歯周病で歯がなくなり入れ歯の使用者が増えること、さらに、唾液の分泌が少なくなってくること等が関係していると考えられています。年をとってくると歯磨きや入れ歯の手入れ、また舌の清掃がだんだんおろそかになり、口の中が汚れてくることも影響すると考えられます。高齢で寝たきりになって歯磨きが自分でできなくなった場合、家族などが口腔ケアをしてあげないと口臭は非常に強くなります。どのような年齢においても、常にお口の中を清潔にしておくことが口臭予防には大切です。

口臭


 

  喫煙と飲酒による口臭                     

タバコを吸っている人は、喫煙者特有のニコチンやタールのにおいがします。タバコの悪影響はそれだけではありません。歯がタールの付着のために黒くなったり、歯肉がニコチンの影響で毛細血管が収縮し暗紫色になったり、メラニン色素が沈着したり、繊維性でごつごつと肥厚してきたり、粘膜上皮の角化が進んで白班(白色病変)が生じたりします。この白班は、前癌病変である白板症に移行する可能性があります。また、タバコは吸っている本人だけでなく、タバコを吸わない周囲にいる人にも有害です。タバコの煙にはタール、ニコチン、一酸化炭素などの有害物質が200種類以上含まれていますが、これらは喫煙者がフィルターを通して吸う煙(主流煙)よりも、火のついた部分から立ちのぼる煙(副流煙)に高濃度に含まれているからです

タバコを吸う人に口臭が認められる理由としては、直接の影響だけで口臭なく、歯周病との関連も挙げられています。歯周病の進行には喫煙が大きく影響するので、タバコを吸うことによって歯周病が悪化し、そのために口臭が一層強くなることも考えられます。

 

 

お酒を飲んだ後、アルコールは体内で吸収されて、血液循環によって肺に運ばれ、そこから呼吸の際に揮発性のアルコール成分が出てくるので、飲酒をしていた人の吐く息はアルコール臭くなります。お酒を飲む時は、量は程々にしておきましょう。

 

  舌苔(ぜったい)                           

鏡に向かって舌を出してみると、白~淡黄色の苔のようなもの口臭がついているのに気づいたことはありませんか。これは舌苔(ぜったい)といい、細菌の死骸や新陳代謝で脱落した粘膜上皮の細胞、白血球などのタンパク成分が主体になっているため、細菌によって分解されると口臭の原因になる揮発性硫黄化合物物質を発生します。多量の舌苔の付着は口臭発生の大きな原因となります。

 

 

 

  歯周病と口臭                          

歯周病を引き起こす主な原因はプラークで、その約70%は細菌です。毎日の口腔清掃が不十分で、プラークが残ってしまうと、プラークは徐々に厚みを増していきます。このように厚くなったプラークの深い部分では表層部分に比べて酸素が少なくなっているのですが、その少ない酸素の中でも生活できる細菌(嫌気性細菌)の出す毒素や酵素などの影響で、歯肉に炎症が起きるのです。歯肉がぶよぶよと赤く腫れて、歯ブラシが触れただけでも出血するようになり、さらに悪化すると歯と歯肉の間から膿が出てきたり、歯を支えている骨が溶けて歯がグラグラ動いたりするようになります。こうして歯周病になってしまうと、歯肉の組織が破壊されて、白血球が出てきたり出血したりします。このような破壊された組織や白血球、死滅した細菌などのタンパク質がにおい物質を発生させるもとになります。嫌気性細菌の出すタンパク質を分解する酵素で、これらのタンパク質が分解されると、口臭の原因となるガスが発生します。軽度の歯肉炎では口臭はほとんどみられませんが、重症の歯周病では口臭が強く発生します。


 

  むし歯                        

1~2本の小さなむし歯があっても、それで口臭が強くなるということ口臭はありません。しかし、重症のむし歯や多数のむし歯がある場合には、口臭が発生する可能性があります。むし歯が大きくなって進行すると歯の神経にまで達し、神経が腐って死んでしまう場合があります。また、歯の神経を処置した後に、歯の根の先に病巣ができてそこから膿が出てくる場合もあります。さらに、穴の開いた大きなむし歯が口の中にたくさんある場合には、口臭が強くなってきます。


 

  唾液の量                      

唾液には消化作用、食物を湿らせて飲み込みやすくする作用、食物を水分に溶かして味覚を感じさせる作用がありますが、これ以外に、口の中の洗浄作用や、抗菌作用、粘膜の保護作用など、口臭予防に関連した重要な役割があります。ですから、唾液の分泌が悪くなると、これらの作用が弱くなって口の中が不潔になって口臭が発生しやすくなります。唾液は加齢とともに分泌量が減り、また薬物の副作用で分泌が抑制されることもあります。降圧剤、睡眠薬、抗アレルギー剤、吐き気止め、筋弛緩剤などの一部には、唾液分泌を抑える副作用があるので、注意しましょう。

 

  胃                                  

食道と胃の境界である噴門部は、飲食物が通過する時以外は括約筋口臭で閉じられているので、げっぷでもしない限り胃の中の空気が口の中に出てくることはありません。「胃が悪いと口臭が強くなる」と信じている人は多いのですが、このようなことはほとんどありません。消化器系の疾患で口臭が発生するのは食道癌、胃癌、食道狭窄、食道憩室などの場合で、胃潰瘍、胃炎、胃下垂などの胃の病気が原因で口臭が発生することはほとんどありません。

口臭の90%以上は口の中に原因がありますが、次に多いのが、副鼻腔炎(蓄膿症)、慢性鼻炎、慢性扁桃炎症、咽喉頭癌などの鼻やのどの病気です。また糖尿病、尿毒症、腎不全、慢性肝炎、肺膿瘍、肺癌などが原因で口臭が発生することもありますが、その割合は非常に少ないと考えられています。口臭が気になった場合は、まずは歯科医院で相談するのがよいでしょう。