サメを絶滅から救うために

No.170

4年間にわたって続いたこのサメ連載もいよいよ最終回。最後は絶滅危惧種についてのお話を。

 ヘリポートが設置されているような巨大な漁船が着岸する。カチコチに冷凍されたカツオやマグロを水揚げするため、ひっきりなしに動く船のクレーン。その近くに無造作にコンクリートの上に投げ捨てられていた魚があった。近づいてみると3mくらいあるクロトガリザメ。私はサメを取材するために各地の漁港を訪れるのだが、このような光景をよく目にする。残念ながら、それらは食用として利用されることは少ない。

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クロトガリザメ

「サメ」というと、その印象から力強さを感じるかもしれないが、約1,000種類いる板ばんさいるい鰓類(サメやエイの仲間)の31%が絶滅危惧種とされていることをご存知だろうか。ジョーズの映画で悪役として有名になったホホジロザメや、水族館で人気のジンベエザメ、真っ青なボディでしなやかに高速で遊泳するアオザメなど、サメの代表格ともいえる種類のほとんどが、残念なことに絶滅危惧種としてリストアップされている。

 理由はサメの種類によって様々だが、他の魚をターゲットにした漁にたまたまかかって死んでしまうような「混獲」による影響なども軽視できない。なぜならば、サメには(1)寿命が長い(2)成熟年齢が遅い(3)出産仔数が少ない(4)妊娠期間が長い、といった注目すべき4つの特徴があるからだ。

 ニシオンデンザメという深海ザメは、近年の研究により、脊椎動物の中でもっとも長寿であることがわかった。400年も生きるというのだ。この場合推定される成熟年齢は150歳だそうだ。シロワニというサメがいる。これは小笠原諸島などに生息する温帯域を好むサメであるが、出産仔数はわずか2尾。一度に数千万個の卵を生む硬骨魚類と比較しても、極端に少ないことがわかるであろう。深海に生息するラブカは、妊娠期間が3年半と長く、それはギネスブックに掲載されるほどだ。

 4億年も昔から地球上に生息するサメにとって、これら4つの特徴はトッププレデターの繁殖生存戦略として最適なはずであった。しかし、わずか700万年前に地球上に出現した人類は瞬く間に、高度な漁業革新を遂げた。その結果、漁業という外圧により、サメは簡単に個体数を減らしてしまったのだ。冒頭に出てきた漁船の正体は大型巻き網漁船。ヘリコプターで魚の大群を見つけて一網打尽にする。このような漁業における混獲などがサメたちにとって大きな脅威となっている。

 

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巻き網漁船からの水揚げ風景

生態にまだまだ謎の多いかれらを絶滅の危機から救うためには、まずは積極的な生態研究が必要とされる。「サメの正しい情報を漁業にかかわる方々はもちろんですが、一般の方にも知ってもらう」これはシャークジャーナリストとして私の活動の中核である。微力ではあるが、サメへの関心や大切さを世間一般の方々に認知してもらい、ひいてはサメの研究をしやすい社会を作りたい。サメとヒトがよりよく共存できる世界へ。皆様がこの連載を通じて、もし、少しでもサメに関心を持って頂けたとしたら嬉しいです。よろシャー

 

 

絶滅危惧種は以下のサイトを参照しました。https://www.iucnredlist.org

著者

沼口麻子

サメのジャーナリスト
(沼口/浅子)

沼口麻子(ぬまぐち・あさこ)

シャークジャーナリスト

1980年東京生まれ。東海大学海洋学研究科水産学専攻修士課程修了。小笠原諸島のサメの研究を経てサメに特化した情報発信を行っている。テレビ、ラジオ、雑誌等にて活躍中。2014年より東京コミュニケーションアート専門学校(海洋生物保護専攻)にて講師。両親ともに歯科医師。

【連載】

〈雑誌〉月刊マリンダイビング「サメの魅力」(水中造形センター)

〈WEB〉現代ビジネス「サメに恋して」(講談社)

サイト「SAMECUISE」(サメクルーズ) プロデュース