スニーカーをガブリ マンキラーという愛称のサメ

No.166

オーストラリアやパプア・ニューギニアで「マンキラー(人殺し)」と呼ばれているサメがいる。被害も多く報告されており、世界中のシャークアタックをとりまとめた国際サメ被害目録2017>(※)によれば、被害報告例の多い順に、ホホジロザメ、イタチザメ・オオメジロザメを含む大型のメジロザメの仲間に次いでランキングされている。

 身体は扁平で、背中の模様は苔の生えた岩にカモフラージュするような色合い。海底で動かず、じっと待ち伏せし、獲物が近づいてきたら、大きな口を開けてパクッと捕食する。このサメの名前を「オオセ」という。オセアニアに生息するこの仲間は2m以上と大型になり、波打ち際を歩いていたり、海の中で足をついたときにたまたま踏んでしまったりして、?みつかれる事故が相次いでいるのだ。

 オオセは、実は日本にも生息している。日本のものは最大1.2mと、オセアニアのそれと比べると小型であることと、ホホジロザメのような紡錘形ではないことで、怖いサメとして認識されていない。が、実は大変危険なサメなのである。

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左:スニーカーに噛みついたオオセ。右:オオセの口の中。何本か歯が折れている。

わたしが大学生だったころ、忘れられないエピソードがある。伊豆半島のエビ刺し網漁で漁獲されたオオセを漁師さんから譲ってもらったときの話。水揚げしてコンクリートの上においておいたオオセが、その近くを通りがかった先輩のスニーカーに勢いよく?みついたのだ。水揚げしてから3時間以上経過していたので、死んでいたと思っていたのが、生きていた。先輩は危機一髪、瞬時にスニーカーを脱ぎ捨て、大事には至らなかったのだが、鋭く長いオオセの歯がスニーカーに食い込んで、どうにもこうにも離してくれなかった。最年長の漁師さんに助けてもらい、どうにかスニーカーを救助できたのだが、折れた鋭い歯がスニーカーに残っており、それを見ながら、先輩と二人で恐怖におののいたことは忘れられない。

 世界中のサメを取材しているわたしであるが、こんなにも間近で人に?みついたのは、後にも先にも、このオオセだけ。マンキラーというのは言い過ぎかもしれないが、物事はなんでも見た目だけで判断してはいけないと学んだ22歳の冬だった。

                                                                                                        (※)国際サメ被害目録のウェブサイト
                                                                                           https://www.floridamuseum.ufl.edu/shark-attacks/

著者

沼口麻子

サメのジャーナリスト
(沼口/浅子)

沼口麻子(ぬまぐち・あさこ)

シャークジャーナリスト

1980年東京生まれ。東海大学海洋学研究科水産学専攻修士課程修了。小笠原諸島のサメの研究を経てサメに特化した情報発信を行っている。テレビ、ラジオ、雑誌等にて活躍中。2014年より東京コミュニケーションアート専門学校(海洋生物保護専攻)にて講師。両親ともに歯科医師。

【連載】

〈雑誌〉月刊マリンダイビング「サメの魅力」(水中造形センター)

〈WEB〉現代ビジネス「サメに恋して」(講談社)

サイト「SAMECUISE」(サメクルーズ) プロデュース