内閣総理大臣 DNA君、官房長官 RNA君、外務大臣 レセプター君、厚生労働大臣 ミトコンドリア君、法務大臣 Tリンパ球君…、少子化対策担当大臣 性染色体君。細胞が地球上に現れたときに使命された細胞内閣は今でも変わらない。
内閣総理大臣のDNAに異常が生じると、細胞はアポトーシスという細胞死に導かれ、細胞自体の破壊、内閣総辞職が起こる。また、官房長官であるRNAが上手く総理であるDNAの情報を復元できなければ、病気という事態に陥ることになる。異常な蛋白が作られてしまうから…。
一方、日本の内閣は目まぐるしく代わり、しかも、その大臣たちの話は実にわかりにくい。首相は何を言っているのか、それを補佐する官房長官も歯切れが悪い。実は、細胞の総理大臣であるDNAの指令も実にわかりにくいのである。31億塩基対の中に、わずか1~2%程度の重要な内容(エクソン:遺伝子配列)が意味のない配列(イントロン)中に隠されているからである。しかし、細胞の官房長官RNAは実に素晴らしい。1~2%だけのDNAの遺伝情報のみを取り出し(スプライシング)、国会議事場である細胞質へ必要なことだけを持ち込むからである。その細胞質では、遺伝情報の解読が始まり、アミノ酸配列が決まり、そして必要なタンパク質が分泌される、実に理路整然とした議題はエクソン主体のみの細胞国会である。日本国内閣はもちろん、一般の会議では是非、細胞内閣を見習って欲しいと思う。
さて、講演や講義では、イントロンがたいへん重要である。例えば、前述の話を別の視点から講義すると「今日はセントラルドグマについて話します。セントラルとは中心、ドグマとは宗教における教義のことで、分子生物学の中心原理と考えればよいでしょう。これは、遺伝子のDNAの情報が伝令RNAに転写されることに始まります。転写とは、DNAの情報を鋳型としてmRNAという鋳造物を合成することです。このmRNAに写し取られた遺伝情報はtRNAという翻訳機で翻訳されて、必要なタンパク質が合成されるわけです。東海道新幹線に例えると、東京から大阪までの線路と駅がDNAで、品川、新横浜、小田原…という駅が遺伝情報で、線路は意味がない場所です。そして駅だけの写真を撮影し並べたのがmRNAで…」、と考えれば結構わかりやすい。それは、文章の中にイントロンが多いからである。この話のエクソンはというと、DNA→(転写)→mRNA→(翻訳)→タンパク質となる。しかし、このエクソンのみでは飽きてしまう。かといって、イントロンが多すぎると雑学のみが頭に残ってしまう。
私の大学教員としての見解はこうである。基礎話題の講演はイントロンが6割以上、学生の講義はイントロンが4割以内、会議はイントロンが1割以下。私はエクソンのみの会議でいいと思っている。要点のみで短時間に終わり、私が眠らずにすむから…。