まるでお婆さんのようなサメ?! 名前の由来に想いを馳せる

No.158

 「ウバザメ」というサメがいる。漢字では「姥鮫」と書く。彼らの特徴は胸ビレの前に位置する大きな5つの鰓エラ。それが老婆の皺に見えたから、そんな名前がついたといわれているが、その由来は定かではない。

t

ウバザメのエラの内側についている鰓耙(さいは)。ここでプランクトンを濾し取っている。

ウバザメは最大12mにもなるといわれている巨大ザメ。昔は日本近海にも多く見られたというが、今では絶滅が心配されている生物のひとつ。ホホジロザメに見間違われることもあるが、彼らはプランクトンしか食べないサメの一種であり、ホホジロザメのように鋭い歯で噛みついてくることもない。ゆったりと水面を泳いでいることから、英語では「Basking Shark」=日光浴をするサメなんていう愛らしい名前で呼ばれている。

 プランクトン食のサメは捕食の際に歯を使わない。その代り、彼らは「鰓さいは耙」という特殊機能を持っている。それは2mm幅で薄べったく、細い櫛のようなものが鰓の内側にびっしりと並んでいるのだ。触ってみるとプラスチックのような硬さと弾力があり、ここで大量のプランクトンを濾し取っている。サメ以外にも同じような機能を持つ生き物がいる。それはヒゲクジラの仲間。プランクトン食の彼らはいわゆるクジラのヒゲといわれる部分で、プランクトンを濾し取って食べている。

t

横須賀で水揚げされたウバザメ。歯抜けのサメに見えるが、実際には数mm 程度のカギ状の歯がある。全長は6m 以上あった。

2016年3月29日のこと、横須賀の佐島漁港でウバザメが水揚げされた。わたしはすぐに現地へ駆けつけた。残念ながら、既に解体されてしまった後だったのだが、水族館が研究のために持ち帰ったという頭部の写真を見せてもらった。彼らは索餌に使わないものの、写真には写らないほど小さな数mm程度の歯を持っている。だから、その写真に写るウバザメの口は、歯がまったくないように見えてしまって、もしかしたら、ウバザメの名前の由来は、サメのシンボルともいえる歯が全部抜けてしまったように見えるところからきているのではないかと、ふと思った。

 

著者

沼口麻子

サメのジャーナリスト
(沼口/浅子)

沼口麻子(ぬまぐち・あさこ)

シャークジャーナリスト

1980年東京生まれ。東海大学海洋学研究科水産学専攻修士課程修了。小笠原諸島のサメの研究を経てサメに特化した情報発信を行っている。テレビ、ラジオ、雑誌等にて活躍中。2014年より東京コミュニケーションアート専門学校(海洋生物保護専攻)にて講師。両親ともに歯科医師。

【連載】

〈雑誌〉月刊マリンダイビング「サメの魅力」(水中造形センター)

〈WEB〉現代ビジネス「サメに恋して」(講談社)

サイト「SAMECUISE」(サメクルーズ) プロデュース