むし歯の感染について

むし歯は、食生活のあり方がかかわる生活習慣病の一つであり、様々な因子がその発生や進行に関与しますが、基本的には細菌による感染症です。したがって、むし歯は子どもにうつるということもできます。

赤ちゃんは無菌状態で産まれてきて、その後ヒトに棲む様々な常在菌に感染し、共生するようになります。むし歯の原因菌も口腔常在菌の一種で、その口腔への定着には歯が充分生えていることが必要であり、乳幼児期の前半に感染するのが一般的と考えられます。そこで、子どもがもっているむし歯病原菌のタイプを周囲の保育者のそれと比較してみますと、母親と一致すること(垂直感染)が最も多いと報告されています。離乳食や幼児食の初期に、スプーンやお箸を共有したり、食物を口移しで与える機会があることによるのかもしれません。

むし歯のなり易さは、甘いものを好むことや歯周囲の汚れが持続する他に、口腔に棲んでいる原因菌のタイプと量にも関連すると考えられています。お母様がご自身の口の中をきれいにして、病原性の弱い細菌と共存しその数を減らしておくことが、乳幼児期のお子様の虫歯予防に大いに役立つといえそうです。

 

乳歯のむし歯予防

昭和50年前後をピークに、乳歯のむし歯は少なくなってきました。平成11年の厚生労働省の全国調査では、1歳児のむし歯有病者率(1本以上のむし歯をもつ割合)は1.2%、3歳児では36.4%、5歳児では63.9%となっており、減少傾向は持続しています。平成になってからも3歳児のむし歯有病者率は半減するなど、減少幅は低年齢児ほど大きく、乳幼児期は保護者の努力が結実しやすい時期とも考えられます。

むし歯は急にできるわけではありません。特に低年齢幼児のむし歯は、数カ月以上前の食生活が最も反映します。1,2歳代でむし歯がよくできる部位は、上あごの前歯で隣りの歯との間(隣接面)や歯茎との境目です。1歳代のむし歯予防には、母乳や哺乳瓶を与えながら寝かしつける習慣を離乳後期(9〜11カ月)までに止めることが最も重要です。2歳代のむし歯は、幼児食と間食を規則正しくとって唾液を働かせ、かつ甘いものを控えることによりほぼ防げます。

3歳以降では臼歯咬合面の小窩裂溝が好発部位となり、食生活での努力とともに、歯磨きの重要性が増します。4,5歳以降になると臼歯隣接面にもむし歯ができるようになり、フロッシングといわれる隣接面の清掃法などを加えられれば申し分ありません。この他に、フッ素をうまく使うこともむし歯を最小限とするコツです。

 

フッ素の乳歯への効果

歯は口の中に生えた後も唾液や飲食物から必要な無機質を取り込み、結晶性や石灰化が向上(萌出後成熟)し、むし歯に抵抗する力(耐酸性)が強くなっていきます。一方、歯に取り込まれたフッ素は、歯の結晶性をさらに向上させ、初期のむし歯となった部分(脱灰)の再石灰化を促します。したがってフッ素は、歯が生えた後2,3年以内の歯質が未熟な時期に最も効果的であり、むし歯にかかる割合を20~40%減少させると報告されています。また、乳歯の構造は永久歯とほぼ同様ですが、やや結晶性が劣るため、フッ素の効果は永久歯よりむしろ高くなります。

フッ素を歯に取り入れるには、主に3つの方法があります。
含まれるフッ素濃度はこの順番に少なくなっていきます。

 

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ただし、フッ素は体内に大量摂取されると急性中毒をおこします。歯科医院での1回の使用量は、万が一全量飲み込まれても、中毒以前の不快症状も生じないように計算されていますが、体内に取り込まないに越したことはありません。そこで、幼児へのフッ素塗布は、うがいが十分にできるようになってからが好ましいと思います。

 

シーラントとは

pic_01臼歯咬合面の小さな窪みや深い溝(小窩裂溝)の部分は、最もむし歯が発生しやすい場所の一つです。小窩裂溝の底部は歯垢が溜まりやすく清掃が難しい部位にもかかわらず、フッ素を塗布しても、その効果は歯のつるつるした面(平滑面)よりもかなり劣ります。そこで、小窩裂溝をあらかじめ埋めて封鎖(シール)し、歯垢が溜まりにくいよう形態修正するのがシーラントであり、予防填塞とも称されます。萌出後成熟の不十分な、生えてから2,3年以内の乳臼歯や大臼歯が適応です。

 

 

シーラントは歯に接着するレジンという材料を用いて行うことが多く、きちんと歯質に接着させるためには、薬剤によって歯面を処理後、十分乾燥した状態で小窩裂溝を覆うように塗布する必要があります。防湿が不完全ですとシーラントが部分的に剥がれやすく、その直下では逆に、嫌気性細菌であるむし歯病原菌にとって非常に棲みやすい状態となります。

したがって、シーラントは、治療に子どもの協力が得られ、しっかりと防湿ができるようになってから行うべきです。個人差はありますが、3,4歳から適用可能となります。一方、5,6歳を過ぎればその必要性は低くなり、意外とシーラントの乳臼歯への適応時期は短いかもしれません。

 

治療と生え代わり

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乳歯のむし歯も治療が必要なことは言うまでもありませんが、子どもの年齢とむし歯の進行程度によっては、放置してよい場合もあります。たとえば、永久歯との交換まで1年程度の初期のむし歯では、清掃がしっかりと行われるならば、治療しなくても特に問題はありません。ただし、歯の交換時期は周囲の条件により大幅にずれることもあり、早急な判断は禁物です。

乳歯の役割には、食物を噛み切ったり咀嚼する以外に、調音器官の一つとして発音機能を獲得する、永久歯が生えてくるまでにその配列に必要な空隙を保っておくことなどがあります。むし歯が進行して、炎症が軟組織である歯髄や周囲の歯槽骨まで達すると、子どもに様々な痛みを与えるだけでなく、ひどい場合には全身的な病気の引き金になることもあります。

 

また、子どもは大人が考えている以上に、自分の歯の審美的な問題に敏感です。歯がかけたり黒かったりすることが、子どもの心理に微妙な影を落としている可能性があります。乳歯のむし歯も、永久歯同様早期にしっかりと治療して、禍根を絶ってください。