10月31日はハロウィン。
カボチャのおばけ(ジャック オー ランタン)やドラキュラや魔女が日本に来るのはイヤですが、仮装した子ども達にお菓子を配るのは楽しそうですね。
でも、キリスト教の諸聖人の祝日「万聖節」(All Hallo /11月1日)の前夜祭(All Hallo Eve)に仮装するのは不思議だと思いませんか?
実はハロウィンの仮装は異教徒ケルト人のサーウィン祭が混在したものなのです。
ケルト人は2500年の歴史を誇る西洋の民族で多神教。彼らは「年が変わる大晦日の夜は『魔』の時間で、さまざまな霊がやって来て災いをもたらす」と信じていました。
ケルトの暦は11月1日から新年が始まります。そこで祭司が10月31日の太陽が沈んだ後に火を焚いて、家畜と作物を神に捧げて新年の幸いを祈り、民衆は悪霊に見つからないよう、祭に合わせて剥いだ動物の皮を被ったり、異性に変装したりして参加しました。この慣習は近年まで残っていたそうです。
子ども達が怖がるサーウィンの儀式を、今の楽しいイベントに変えたのは、アメリカ大陸に渡ったケルト人の末裔。とはいえ、これだと「行事の意味」は薄まります。
昨年亡くなったアメリカの人気作家レイ・ブラッドベリは、1972年に子ども向けの冒険小説「The Halloween Tree(邦題「ハロウィンがやって来た」晶文社刊)」で、ハロウィンの意味を問いかけました。
物語の舞台はアメリカの中西部の小さな町。主人公は8人の子ども達です。
ハロウィンの夜、お化けの装束で約束の幽霊屋敷の前に集まったいつものメンバーの前で、突然、巨大な<何か>に連れ去られたのは、彼らの英雄ピプキン! ピプキンを助けるには、カボチャの火を輝かせる背後の闇から、ハロウィンの骨を素手で拾ってこなければなりません。
幽霊屋敷の主、マウントシュラウドと名乗る怪人にけしかけられた子ども達は、すべてが埋もれた未知の国を目指し、時空を超えた冒険に旅立ちます。さて、その結末は?
「人々が長生きするようになり時間の余裕もできると、死は遠のき、恐怖は斥けられ、ついには一年のうちの特別の何日かだけ、夜と夜明け、春と秋、生まれることと死ぬことを考えるようになる。」「でも、ハロウィンの大鎌は10月31日に、ありとあらゆる生命の1年の命の一切合切を刈り取ってゆく。」
マウントシュラウドは最後に子ども達にこう語り、幽霊屋敷もろとも消えていきます。
私が学生時代に読んだときにはピンと来なかったこのシーンも、今ならわかる気がします。SFの旗手といわれたレイ・ブラッドベリが、子ども達に贈った素敵な暗号。かつて子どもだった皆様にお薦めします。
コラムニスト 鈴木 百合子
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