草木が微笑むような春。吉野山の麓から山頂に向かい、下千本、中千本、上千本、奥千本と、一カ月以上かけて咲き上るシロヤマザクラの花々は、今頃、山のどのあたりを彩っているのでしょうか。
樹齢500年を超える木もある吉野山の桜は、ご神木として昔から大切にされてきました。今や約3万本といわれ、野生種なので樹高30mを超える巨木があったり、同じ場所に育っても開花の時期が一週間くらいずれたり、花や新芽の色の濃淡が違ったりと、まるで人間のように個性豊かなのも魅力です。
さて、4月は人の社会も新芽の季節。
今ごろは、職場や学校の新人さんや異動してきた方の緊張がピークに達する時期でもありますね。周りの人にはスムーズに馴染んでいるように見えても、実際にはとまどい、人知れず思い悩む新人さんの方が圧倒的に多いはず。
そんなときには無理をせず、現代の脳科学を活用して、脳がいい反応をしやすいコンディションを作りましょう。これは私自身の反省でもあります。
たとえば、人は緊張すると、肩に力を入れてうつむきがちですが、脳の働きから見ると新たな情報を遮断する防御の体勢なので、先輩にものを教わるときには逆効果。
自分が恐縮していると気づいたら、まず、顔を上げて、背筋を伸ばしてください。思いきって顎を上げるだけでも視野が広がり、さらに背筋を伸ばすと相手の動きがよく見えるので、余裕を持って話を聞くことができるそうです。
それができたら、次は笑顔。これも人の脳内プログラムの影響で、無理に笑顔を作るだけでも楽しい気分になれることが、ちゃんと立証されています。
私が特に好きなのは、ドイツのミュンテ博士らの実験です。被験者が箸を横にくわえて(笑顔)言葉のデータを処理すると、縦にくわえたとき(への字)より、明るく楽しい情報をより早く認識する能力が高まりました。さらに笑顔の方には、喜びを感じる神経伝達物質ドーパミンの量も増えていました。
しかも、笑顔は伝染します。
先日、ある病院で、「廊下で会ったら笑顔で挨拶」という月間目標を実行したところ、患者さんたちに「医療者が優しくなった」「病院の雰囲気が何となく明るくなった」という評価が増えたとか。
最初にこの話を聞いたときは「そんなことを標語に?」と驚きましたが、職員同士の照れくささが消えて単純に笑顔が増えたことに加え、笑った表情のまま患者さんに対応することが増えたのも、よかったのでしょう。
コラムニスト 鈴木 百合子
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