手紙のすすめ


image-20220510150953-1 今年も本格的な夏が来ました。このところ、大気の状態が不安定で、午前中は晴れて気温が35度前後まで上がったかと思うと午後にはいきなり大雨や雷雨、という日が続いています。
  こんな時期には、室内でできることを優先するのが一番。この機会に暑中見舞いを書くのもいいですね。年賀状より喜ばれるし、なんとなくご無沙汰してしまった大切な人に連絡を取るチャンスでもあります。

  とはいえ、手紙は書き出すまでが面倒なもの。
「私は手紙を書くのはおっくうがるくせに、もらうのは大好きだ」というのは、芥川賞作家の田辺聖子さんの「いっしょにお茶を」という素敵なエッセイの書き出しですが、こんな名人でさえ億劫なのです。

そんな田辺聖子さんの考える「いい手紙」とは人柄が素直に出た言葉で、格別な能力はいらず、謙虚な気持ち、感謝の気持ち、お祝いの気持ちが心から心へ伝わ るもの。親しい人に出すのなら、話し言葉で十分。時候の挨拶や結び文など手紙の書式にこだわらず、むしろ、思っていることのエッセンスを3~4行に書く方 がいい、というのも共感できます。
  相手に伝えるべきチャンスを逃さない、というのもいい手紙の条件。田辺さんは思い立ったときにすぐ書けるよう、短い文章でもサマになりやすい文房具(無地か罫の広い便箋もしくはカード、ペン先が太い筆記用具やシールなど)を手元の文箱にまとめて置くそうです。

 いい手紙には、大事な人を守る力がある気がします。
  漢字には象形文字や会意文字が多いせいでしょうか、「敷島の大和の国は言霊(ことだま)の幸はふ国」と万葉集に詠まれているように、昔の人は日本語の言葉には魂が宿ると考えていました。
  結婚式を祝言(しゅうげん)とよび、慶事に神社で祝詞(のりと)をあげてもらうのは、その名残です。

  私自身、以前、体調を崩した時に尊敬する先輩にいただいた励ましの手紙や、うまくいかないと密かに悩んでいた身内が心の深いところで理解してくれていたと 気づいた手紙、外国の友人が祖国で戦争に巻きこまれたとき郵便事情の悪い中、無事を知らせてくれた手紙など、心に残る手紙がいくつも思い浮かびます。

  手紙は読み返されるもの。手紙を書くときは、常に和顔愛語(わげんあいご)を心がけましょう。優しい表情で温かい言葉を選んで一文字一文字ていねいに書かれたお手紙が、あなたの大切な方の心のビタミンになりますように。

 

コラムニスト 鈴木 百合子

 

 << バックナンバー