健全な身体は健全な精神に宿る?


image-20220510112403-1 いよいよ初夏。
  新緑や飛び交うツバメの姿に生命の息吹を感じる、美しい季節です。
  生命力といえば、先日、TV番組で「東京・表参道のある美容サロンで管理栄養士が定期的に栄養指導を実施したら、若い美容師たちが見違えるように健康になった」という報道を観ました。

  ことの始まりは3年前。健康診断で、この店の美容師はみんなスリムなのに、血糖値の平均値が50代並という結果がでたことです。マネージャーは「これが、身体を壊して欠勤や退職をする従業員が多い理由なのか」と危機感を持ち、管理栄養士に栄養指導を依頼しました。

  管理栄養士が改めて従業員の生活を見直すと、「朝食抜き、昼食も食べるヒマがなく、自動販売機の缶ジュースと菓子パンで空腹をごまかして立ちっぱなしで働き続け、夕食もいい加減」という厳しい実態が見えてきました。これは飢餓に近い慢性的な栄養不足の上、すきっ腹に砂糖を30g以上含む缶ジュースや300~500kcalの菓子パンを大量に摂るということ。多くの栄養素は飢餓に近い栄養不足なのに糖分だけが大量なのですから、血糖値が急上昇するのは当然です。

  そこでその管理栄養士は、まず、営業前の「朝食タイム」とウォーターサーバーの導入をマネージャーに進言。缶ジュースの自動販売機は撤去しました。そして毎月の個別指導では、忙しくても楽しく手軽にできるお弁当やサラダの作り方を、明るく具体的にアドバイスしていったのです。

  食事作りはハマると意外に面白くなるもの。しかも、本人の髪や肌に見違えるようなツヤが出て美しくなるという嬉しい効果もありました。美のプロだからこそ、その価値がよくわかります。

  今や、この店の美容師は男性も女性もお弁当を持参、缶ジュースも減り、ほぼすべての従業員の血糖値が平均値まで改善されました。実体験があるからこそ、担当するお客様との営業トークの幅も広がり、売上げも増えているそうです。

  この具体的な指導は、医療行為としても示唆に富んでいます。というのは、実際に地域の診療所で生活習慣病を指導しておられる先生方はすぐ気がつかれたと思いますが、昼食が菓子パン、缶ジュースや缶コーヒーをよく飲むというのは、重い生活習慣病を患っている高齢者の食生活に非常によく似ています。

  多くの場合、生活習慣病の患者さんは自分の食事の内容を客観的に考えることができません。こういう生活習慣を変えるには、個別の対応と、患者さんの環境を変えることが両方とも必要です。

  どこまで患者さんの身になって考え、実際にその身を守ってあげられるか。とても大変なことですが、私たち医療関係者がこの管理栄養士に学ぶことは、とても多い気がします。

 

コラムニスト 鈴木 百合子

 

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