乳歯の内側に永久歯が生えてきた場合
乳歯の直下にある永久歯が発育し生える(萌出=ほうしゅつ)運動を開始すると、乳歯の歯根を溶かし吸収(歯根吸収)し始めます。一般に、乳歯の歯根吸収は2,3年ほどかけて徐々に起こり、最終的に乳歯は、ほぼ歯冠を残すのみとなって抜け落ちるのが普通です。最初に起こる下顎乳中切歯の交換は、早い子どもでは5歳半頃から始まり、平均的には6歳過ぎとなります。
永久歯の萌出経路が偏っていると、萌出しかかっても乳歯歯根が十分に吸収されず、乳歯が抜けないで並存することがあります。このような現象を“二重歯列”といい、下顎切歯部では、永久歯が内側に生える形でよく観察されます。二重歯列では乳歯を抜去し、後続する永久歯を本来の位置に誘導する必要があります。下顎切歯部では、乳切歯抜去後の空隙が永久切歯の幅と同じかやや少ない程度ならば、舌の運動する力によって、永久切歯は自然に前方へ移動します。
ただし、この空隙が足りないからといって隣りの乳歯まで抜去することは適当ではありません。隣接する乳歯の下にも後継があり、その萌出に必要な空隙を一部使ってしまい、問題の先送りになるからです。下顎永久切歯部のでこぼこや重なり(叢生=そうせい)は、4本生え揃うまで待ってから処置の必要性を検討します。
前歯の萌出
萌出時期は、身体発育の程度や歯列内の状況などによる個人差が大きく、前歯の生え方を周りの子ども達と比較してもそれほど意味はありません。しかし、上顎前歯部で左右差が著しい場合には要注意です。具体的には、片方の永久歯が生えて半年ほど経過しても反対側の乳歯が残っている、ないし抜けていても永久歯が生えてこない場合には、レントゲン写真を撮影し、歯科医にその原因を探ってもらう必要があります。
本来の時期よりかなり遅くなるものの、いずれ生えてきそうな場合を萌出遅延といいますが、歯並びの観点からは、長く待つことは好ましくありません。乳切歯より大きな永久切歯がうまく配列するよう歯列前方部が拡大するためには、左右の同名永久切歯が同調して萌出してくることが必要条件の一つとなります。したがって、脱落時期が相対的に遅くなった乳歯は、後継永久歯の歯根形成度を確かめた上で抜去しなくてはなりません。また、永久歯上部の肥厚した歯肉を切除して(開窓)、萌出を促すこともあります。
これに対して、物理的に永久歯の萌出経路を阻害している過剰歯や小さな歯の塊が入った腫瘍(歯牙腫)などが存在したり、あるいは永久歯自身の位置や形態に問題があったりして、自然な萌出が望めそうもない場合を埋伏(まいふく)といいます。前者では外来での小手術により原因を除去することを、後者では、主に矯正的な牽引処置を考慮します。
生えてきた永久歯の色や形
歯列全体の永久歯の色や形がおかしい場合には、一般に遺伝的あるいは全身的疾患の影響が疑われます。しかし、乳歯列時代何の兆候もなく、永久歯になって初めて異常があらわれることはごく稀です。一方、個々の歯の表面が部分的に茶色く窪んでいたり(エナメル質減形成)、白く濁っている場合(白斑)には、顎のなかで永久歯が成熟し石灰化していく時期に、乳歯由来の炎症などの直接的影響があったことが推察されます。
乳歯のむし歯などが進行して重篤な歯根周囲の炎症(根尖性歯周炎)を生じた場合、歯槽骨内の後継永久歯歯冠表面に茶褐色の陥凹をもたらすことがあります(ターナーの歯)。1,2歳の頃、乳前歯を強くぶつけてもぐってしまう(外傷による埋入)など、乳歯歯根が直下の永久歯歯冠に極端に近接した場合にも同様な症状がみられることがあります。それ以降の乳前歯外傷の影響では、永久前歯の石灰化が進むためエナメル質減形成が観察されることはほぼなくなり、代わりに白斑が時折みられるようになります。
色や形が部分的に変でも、その部分を削り取り、歯に接着する材料で本来の形態、色調に修復することができます。ただし、生えた直後は歯の成熟が不十分で歯髄腔が大きく、できれば1,2年待ってから処置することが好ましいといえます。また、歯列咬合が発育し終わってから、歯を全体的に被せて修復することも可能です。