春爛漫、香り高い桜湯をどうぞ


image-20220510154523-1 関東地方では例年より早く桜が満開です。そういえば、関東では結婚式や結納には桜湯が供されます。静々と運ばれた蓋椀の蓋を取ったとき、薄いピンクの桜の花からふわりと立ち上る桜の香り。お式でないときでも、桜湯が出てくるだけで、あらたまった気持ちになります。

  桜湯とは、桜の花を摘んできて自然塩とごく少量の梅酢で漬けた桜の塩漬けを二輪、湯のみにとって、お湯を注いだもの。「関山」という美しい八重桜の蕾が開きかけたところが、でき上がったとき不思議に色も香もよいそうです。

桜湯に使うのは「関山」という対(つい)で咲く大輪の八重桜の花。お椀の中で二振りの花が開くのは、新婚の二人が仲よく添い遂げるという意味もあるのかもしれません。

  関西より西では、慶事に結び昆布を使うそうですね。これは「喜ぶ」を「よろ昆布」に掛けた掛詞(かけことば)。形が違っても、新婚の二人の幸せを願う心は東も西も同じです。

  慶事に桜湯を供するようになったのは、徳川家斉の時代のよう。時はお家の存続が何よりの重大事だった封建時代まっただ中。家が繋がる婚儀の席で「お茶を濁す」とか「茶々を入れる」と言われるお茶を出すのは縁起が悪いと考えた人がいたようです。

  気品あふれる爽やかな香りと華やかな大輪の桜の花が湯のみの中で開いて行く桜湯は、まさに育ちのいい若い二人の人生の春を現わすようで、良家の結婚の幕開けにふさわしい華やかな花茶です。

  桜餅に使う桜の葉も「関山」です。桜の葉独特の甘い香りは、クマリンという香り成分で、塩漬けにすることで発生し、それに伴い抗菌作用も生まれるそうです。

  春はお茶席で桜餅をいただくことも多いのですが、葛桜、柏餅などもそうですが葉で包んである和菓子はお茶の心得がないと食べにくいものですね。お菓子下敷きだと考えてください。

  まず、上側の葉を手前から向こう側へと開き、葉の上で黒文字を使って食べやすく切り分けてから、一口ずつ黒文字で口へ運びます。
食べ終わったら葉を丸めて小さくまとめ、懐紙などに包んで持ち帰ります。残した葉は葉先からクルクルと巻き、爪の先で切り目を入れて葉柄差し込んで小さく纏めます。

  桜湯は明治時代、甘味処に必ずあったポピュラーな飲み物でした。桜の塩漬けを見つけたら、ぜひご自宅でもお試し下さい。桜の炊き込みごはんにしたり、ヨーグルトに入れたりして、華やかな春を味覚でもお楽しみください。

 

コラムニスト 鈴木 百合子

 

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