II 食事の咀嚼訓練
咀嚼運動は歩行、呼吸とともに典型的なリズム運動であり、そのリズムは脳幹に位置するニューロン集団(咀嚼リズム発生器)によって形成され、小脳における咀嚼運動学習を練習によって体で覚える運動性記憶としての運動反射を獲得されている。咀嚼は歯根膜の感覚受容器と閉口筋中の筋紡錘とに発する反射が主たる役割を果たしている。特に機械的な歯牙接触時による歯根膜の感覚情報と感覚受容器からの反射とが咀嚼筋活動を微妙に調整している。咀嚼力は随意的に調整できるが、通常は無意識のうちに反射的に調整されている。
咀嚼力の低下と咬合のアンバランスを正す訓練には歯根膜の感覚受容器の感受性を高めて、咀嚼のリズムを獲得する訓練が必要である。歯の接触する時間は起きている時が約5分、就寝時は約15分である。この5分の咀嚼の時間と咀嚼力、噛みぐせによる咬合バランスが生体に影響を与えている。
正常者としての咬合力、平均咬合圧力、咬合面積の値は粥川の報告を参照している(図2)。粥川は左右の咬合バランスの差が15%以上あると、咬合力は低下するとも報告している。
図2
正常咬合者および各不正咬合者群の咬合面積、平均圧力、咬合力(平均)
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正常
咬合者群 |
叢生群 |
過蓋咬合群 |
切端咬合群 |
開咬群 |
咬合面積
(mm2) |
42.80 |
21.75 |
12.80 |
27.46 |
11.48 |
平均圧力
(MPa) |
7.42 |
7.55 |
8.03 |
6.84 |
7.85 |
咬合力
(N) |
315.60 |
162.75 |
99.25 |
187.00 |
87.50 |
粥川の論文より引用。著者はこの値を基準としている。
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平成6年度の口腔機能発達研究委員会の調査では食事中、献立の内容にかかわらず、水や牛乳、お茶を飲む習慣がある幼稚園児、小学生、中学生は55~60%に及んでいると報告している。咀嚼の回数を減少させているのは食事中の飲み物であり、食卓から、お茶、水などを除くように指導している。卵かけご飯などの水分系の多い、流し込む食事の制限をし、動植物系の繊維の多い食材を選択し、歯根膜にリズミカルな刺激を与える運動で、1口で20回以上の咀嚼を心掛けるように指導している。スパゲッティなども、イカや貝、ソーセージ等の具を工夫することで咀嚼回数は増大する。そして、できるだけ食材は大きく、または細長く調理するよう心掛ける。具体的な料理に関しては料理別咀嚼回数ガイド(風人社 神奈川歯科大学教授・斎藤滋、女子栄養大学講師・柳沢幸江)を患者に提示している(図3)。
図3 料理別咀嚼回数ガイド
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