安定した機能と咬合を求めて

GC CIRCLE No.86
はじめに

著者は日ごろから、10歳の時の治療は10歳のための治療ではなく、よりよい80歳になるために10歳の時に何をすべきかと考えて治療に当たっている。保存・補綴・口腔外科・歯周・矯正のそれぞれの歯科治療も経時的に考察すべき事柄である。

近年、形態と機能の相互関係が注目されてきている。機能が正しく働いて、外力が正しく作用すれば生体はバランスを保ち、形態も正しくその形を維持し、外力に応じて生体は変化をする。咀嚼を含めた生体のバランスが良いものは無駄がなく、安定して、美しい形態を得て、かつ維持しているのは自然界の摂理である。

歯列や顎骨の形態も外力によって変形することは古代ギリシャのヒポクラテスの時代から知られている。咀嚼による外力や口腔周辺の種々な習癖によるポスチャー(posture・姿勢位)の外力による生体力学的要因により、顔面、歯列に作用して顎顔面変形症、歯列不正、顎関節症、歯周疾患などに深く関与している。これらの外力が口腔周囲のみならず、頭・首・下顎が連動している結果、全身の疾患に関与しているのは当然の結果である。日本咀嚼学会では『噛む効果』を日本教文社から出版し、咀嚼と全身の問題を子供、成人、老人と経時的にとりあげ、咀嚼の重要性を警鐘している。

臨床的にも、歯科処置のみではなく、生体をよりよく維持するためには正しく噛む効用とポスチャーを重視して、より安定した咬合を維持するように指導、治療を行う必要性がこれからの重要な課題と考えている。

歯列不正、歯周疾患、補綴修復物の破折、顎関節症など咬合に関与する治療の場合、デンタルプレスケールとオクルーザーで咬合状態をチェックし、必要に応じて、以下の日常生活の注意と訓練を行っている。

  1. 姿勢保持の訓練
    1)全身のポスチャー
    2)口腔のポスチャー
  2. 食事の咀嚼訓練
  3. ガムとチューブによる咀嚼訓練
    1)ガムによる咀嚼訓練
    2)チューブによる咀嚼訓練

今回、床矯正治療と咀嚼訓練による咬合機能の回復について、デンタルプレスケールとオクルーザーを使用した経時結果から報告する。

 


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おわりに

ここ数年、歯科の分野は目覚ましい発展を遂げている。著者は歯科臨床において、発展の基準は歯の形態、歯列の形態であることを念頭において、形態が修復されれば機能が追従するものと考えてきた。しかし、事実は機能により形態は変化している。近年、食文化、生活様式、家庭環境などが大きく変化するのに伴い、口腔及び、全身の機能を作用する環境が大きく変化した結果、口腔機能が低下している症例にしばしば遭遇している。

今回提示した矯正の症例に見られるように、床矯正装置により形態を動的に修正し、咀嚼機能が向上する訓練を行うことによって、口腔に適合したより良い形態が得られる。

臨床医としては保存、歯周、補綴処置においても、患者の咀嚼機能を向上させ、正しい機能の形成と保持する治療を必要とする症例もある。かつ、正しい口腔と全身のポスチャーを指導、管理することで安定した口腔の環境を構築することができ、生涯を通して、安定した咬合が維持できると考えている。

写真撮影:D.H.長島理佳子、D.H.磯貝さおり  技工:D.T.松尾貴子

 

著者

鈴木 設矢

東京都中野区開業